(77) 海容 Great Forgiveness

エリカの日常

車内の空気が 変わっていた。

医者に行くときは どんよりと

重かったのに 今は ラジオから

流れるアップテンポの曲に乗って

どこか 軽やかな感じになっていた。

 

家に帰ると「エリー お茶を入れて」

と マークが言った。

 

お気に入りの FAUCHONの

アールグレイをいれた。

 

穏やかな顔でマークが話し出す。

「ドクターに言われて 考えたんだ。

確かに 僕たちの結婚生活は

普通とは違っていた。 最初から

キャシーという他人が

ずっといたんだから…」

 

でも それは あなたが

パニックアタックを起こして

仕事に行けなくなったからでしょ。

と 言いたかったが、 黙って

マークの顔を見ていた。

 

「それで 僕たちは 本当の夫婦の

生活をしないといけないと

思ったんだ。 誰にも邪魔をされずに

二人だけで お互いを見つめて…

だから 僕はエリーを許そうと思う」

と マークは言った。

 

何? わけがわからない?

私を許すって?

 

微笑みさえ浮かべて 私を見つめる

マークに対して言う言葉はなかった。

 

どんなふうに 考えたら

そんな結論が出るのだろうか?

 

医者に 普通の結婚生活と違うと

言われたからと言って

そんなに簡単に 考えが変わるのか?

 

だいたい私を許すってどういうこと?

どこまで 上から目線なんだろう?

 

この人は自分が私を許すって言ったら

私が泣いて喜ぶとでも

思っているのだろうか?

 

慈愛の念を持った 仏のような笑みを

浮かべてマークは私を見つめていた。

 

「マーク。 無理だよ。 もう

一緒にはいられない」と私は言った。

 

「この1週間で 引き戻せない所まで

来ちゃったよ」

 

あなたが私を許しても 私はあなたの

本性を知ってしまった。

もう 信頼できない。

そんな人とは

この先一緒に暮らせない。

そんな思いが 駆け巡っていた。

 

「どうして? エリー? 僕は

君を許すって 言ってるんだよ。

だから 今から新しく 二人の生活を

始めようよ」 と マークが言う。

 

「でも… 私はもう知ってしまった

のよ。 最後に何が起きるのか。

あなたが どんなことをするのか…

これから また 同じことが起きたら

どうなるのか わかってしまってる。

だから… 新しく 始めるなんて

できない」 と 私は言った。

 

「どうして? エリー! 君は 僕と

別れるなんて言わないって 言ってた

じゃないか」 と マークが

感情的になってきた。

 

マークは しょっちゅう 「エリー

僕のこと 嫌になったら いつでも

言ってね」と 私に言った。

 

そのたびに 「私から 別れようって

言うことはないよ」

と 私は答えていた。

 

事実 彼が 私を必要としている限り

私は彼を支えていこうと

思っていたのだから…

 

でも 「別れようと言われても

絶対あなたとは 離れない」

と言った覚えはない。

 

私から 「別れよう」とは

言うつもりはなかったけれど

「別れよう」と言われて

その言葉を受け入れるという選択肢は

私にはあるはずだ。

 

いつものようにマークは自分の意見が

100%正しいと思っているのだろう。

寛大にも 私を 許した自分に酔って

私が 涙を流して ありがとうと

言うのを期待しているんだろう。

 

もともと どうしてマークが

私を許せないほど

怒ったのかもわからないし、

別に 許してもらいたいとも

思っていなかった。

 

マークは 酷く感情的になってきたが

私は自分でも 驚くほど冷静だった。

 

これ以上 話をしても 仕方がない。

私の気持ちは変わらないのだから…

 

 

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