タニアが訪れてきてから
ひと月ほどたったころ
急にキャシーがソワソワしだした。
タニアと頻繁に
電話で話すようになって
どうやら出会い系サイトの
登録を勧められたらしい。
始めるときには 目の色 髪の色
肌の色 人種 宗教 というような
自分の情報を入れたり 趣味や
思想などを記入せねばならないので
「めんどくさい」とブツブツ
言いながら登録し始めた。
目や髪 肌の色なんかを
選ぶ項目があるなんて やっぱり
単一民族の日本のサイトとは
違うものだ。
一通り 自分の情報を入れた後の
次のステップ、
プロフィールの写真を撮るときは
大変だった。
キャシーは持っている全ての服を
引っ張り出してきた。
お気に入りのドレスを着て
「これ どう?」と 聞いてくる。
「いいと 思うよ」と 私が言っても
「この服のラインは 太って見える」
と言って 着替えに行った。
次々と 選んだ服を着ては
私の意見を求めるが 結局
気に入らなくて着替えてくる。
写真を撮るまでに
1時間ぐらいかかってしまっている。
「何枚か 写真を撮って
気に入ったものを アップしたら」と
いい加減 ウンザリして 私が言うと
「それも そうね」と
最初に選んだドレスを着てきた。
それから プロフィールの写真を
私が撮ったのだけれど、
しわが目立つとか
老けて見えるとか
笑顔が良くないとか
場所が悪いと
さんざん文句をつけて
撮り直しをさせられた。
一番 綺麗に見える写真を
選びたいのはわかるけど
写真は正直なもので
自分が思っている姿を
写し出してはくれない。
「この写真 キャシーらしくて
いいよ」と 私が言っても
「この笑顔は ちょっと
チーキーな感じがする。
もっと 可愛らしく
笑っているほうがいい」と
却下する。
その笑顔こそ
キャシーそのものなのに… と
心の中でつぶやいた。
数えきれない数の写真を撮って
もう どれがいいかなんて
わからなくなったぐらいだ。
撮るほうの私も疲れてきたが
撮られるほうのキャシーも
だんだん疲れてきて 二人とも
「どれでもいいや」 って
気になってきた。
やっぱり 初めの方に撮った
写真の方が良くて その中から
3枚選んだ。
キャシーの情報がすべて
アップされると 男性からオファーが
どんどんとやってきた。
「出会い系サイトって
やばくない?」と
私は思っていたのだが
タニアの話によると
50歳を越えると出会いの機会も
少なくなるので
みんな結構真剣に
相手を探すから 悪意を持って
登録する人は少ないそうだ。
最初は気が乗らない様子だった
キャシーも
「いっぱいオファーのKissが
来るので クリックする右手が
痛くなってきた」と
結構ハマったみたいだった。
「会わなくても どんな人だろうとか
考えるだけで楽しいよ。
別に誰かと 付き合いたいとは
思ってないけど」と
ウキウキした様子で言った。
「エリー 28歳の男の子から
Kissが来たよ」という話を
聞いたときには びっくりした。
「私は ちゃんと58歳って
年齢を書いているのにね。
私の半分しか 生きていないボーヤが
私と付き合いたいのかな」 と
言って 豪快に笑っていた。
「エリー この人
トム クルーズに 似ていない?
私 好きなのよ」と キャシーが
Kissを送ってくれた人の
写真を見せてくれた。
確かに 似ている。
あの甘い感じの顔。
私も好みだった。
「この人と 会うわ」 と言って
連絡を取り合い いそいそと
出かけて行った。
すっかり キャシーの「おとな恋」に
付き合わされていたが なんだか
私もウキウキして キャシーの帰りを
待っていた。
ランチを食べて
帰って来たキャシーに
「どうだった?」と聞いたら
「トム クルーズの肉が落ちてた。
おじいだったよ」と
がっかりして言った。
どうやら その男性は
何年も前に撮った写真を
アップしていたみたいだった。